第5話 エアロテックの秘密

前回から1年以上が経過した。昨年の今ごろ、新型コロナが注目され、第一回目の「非常事態宣言」が発出された。それから夏を迎え、秋になり、冬の入口当たりで、ウイルスが拡大した。以来、今に至っている。

エアコンはごくごく単純に言うと、中と外の空気中にある熱だけを移動することで、部屋の温度の上げ下げを行っている。

各部屋に1台ずつエアコンを置いているような家を、全館空調とは呼ばない。大きな吹き抜けのリビングや、各部屋はもちろん、玄関や廊下、洗面室や地下室、それにフリースペースのロフトや、在宅のテレワークに向いたミニ書斎まで、ありとあらゆる場所が全館空調の対象となる、それがエアロテックだ。

各部屋に設置されたルームコントローラー、1台の室内機、外部吸排気口の3つで熱交換・空調の効いたきれいな空気が提供される。ルームコントローラーが調節する吹出口は小さい。たとえばわたしの書斎は20畳ほどのスペースだが、吹出口は2箇所にしかない。そして1箇所の吹出口の大きさは縦約17センチ、横約26センチしかない。そこから、夏は涼しく、冬は暖かで、きれいな空気が静かに部屋に流れる。

コントローラーはさらに小さい。縦約12センチ、横約7センチしかない。そこには「AEAROTECH VAV」という文字。その下の温度が表示される小窓、その下に「温度・時間」という文字、上昇を示す△、下降を示す▽、「停止」の文字、その隣に「運転・キープ」という文字、その下に「タイマー」という文字、そのすぐ下に「MITSUBISHI」という文字と製造番号らしき文字列、があるだけだ。

そのコントローラーはわたしの書斎だけに機能している。他の部屋には別のコントローラーがある。わたしの部屋は、南西に向いているので、夏は、とくに夕方は暑い。それで少し温度を低めにする。一般的なゾーン制御の全館空調では、たとえば夏に各ゾーンを27℃に設定すると、日当たりなどによって室温にばらつきが生まれる。エアロテックは各部屋ごとに設定した温度になるように風量を制御するため、日当たりのいい南側の部屋も、逆に日陰になっている北側の部屋も設定した適温にコントロールされている。

それらだけでエアロテックの全館空調は、「見た目」だけは成立している。だが、内部にはハイテクが詰まっている。各部屋ごとに風量を制御しているのが「AEROTECH VAV」という文字が表す、VAVシステムというものだ。Variable AirVolume、可変風量制御システムというもので、各部屋に設置された吹出口の中に「電動ダンパー」と呼ばれる開閉式の羽を設置して、その開閉によって風量を制御する。最近では、VAVに加えて、ABC(Auto Balance Control)という機能も追加された。

これは、従来のエアロテックの実績が積み上がるにつれて、混んでいる部屋が暖房時に温まりすぎ、また北向きの部屋が冷房時冷えすぎといった事例が起こることがわかった。そこで、ダクトの圧力損失、つまり各部屋の吹出口までのダクトの距離やまがりによる風量の吹き出しやすさが変わることを考慮し、部屋の能力設定値を機械が自動的に調整するABCを追加した。わたしは受け売りで「部屋の能力設定値を機械が自動的に調整する」などと書いているが、これがどのくらいの高度な技術かは想像はできない。

なにしろ、住宅用VAV空調システムの研究が、三菱電機によってはじまったのは、1984年のことだった。全館空調「エアロテック」第一号棟モデルハウスが完成するまで、実に11年かかっている。三菱電機と三菱地所ホームが、タッグを組んだ。長い時間がかかっている。

その間、エピソードは山のようにある。ダクトシステムを1つとっても、4種類の内面アルミ貼成形ダクトを採用していて、2014年度のグッドデザイン賞を受賞している。何人もの人が住む「家」なので、考えることは多い。たとえば洗濯だ。24時間、湿度環境を保つエアロテックは、改めて室内干し用の機器を操作する必要もない。きれいな空気のいい家を実現してきたわけだが、わたしには、きれいな空気の実現を阻むモノを徹底して除去してきたという風に映る。

例をとると、換気だ。換気のためにエアロテックはありとあらゆることをやっている。粉塵や花粉を除去し、室内に取り入れるのはきれいな空気だけ、ということだが、その基幹部品というべきものが、室内機の中にある。換気用熱交換器というもので、それには「ロスナイエレメント」という名称がついている。「ロスナイ」という言葉に馴染みがある人は多いのではないだろうか。わたしは、換気扇によくついているのに気づいて、いったいどんな意味があるのだろうと考えたりしていた。「ロスナイ」という換気扇は。三菱電機の「中津川製作所」というところが作った。

「風の中津川」と呼ばれてきたその製作所は、雄大な山々に囲まれた岐阜県中津川市の中心部にある。1943年に航空服などを生産する軍需工場として生まれた。終戦で、役目を終えたかに見えた。雇用を求める従業員らは東京本社に出向いて存続を求め、扇風機の生産が認められた。当時の所長は、競争力がなくなれば閉鎖されるという危機感があったと言う。誕生とともにサバイバルを探らなければならなかった。開発チームは、モーターとハネという扇風機の技術を、換気扇に活かした。その1つが「ロスナイ」だった。命名は、ロスがないという単純な理由だったらしい。エアロテックには、そういった魅力的な製作所、研究施設がいくつも参加している。

わたしが紹介してきたのは、エアロテックの特色、技術の、何千、何万分の1に過ぎない。きれいな空気の家を実現するために、いろいろなことを試しては、取り入れてきた。その中に住んでいる者にとっては、快適という言葉以外にない。エアロテックのわが家は、これまで泊まった世界中のどのホテルよりも快適である。

冒頭に、新型コロナについて書いた。この原稿を書いているのは、2021年の4月だが、収束する気配はない。ところで、エアロテックがグレードアップしたらしい。「新・エアロテックーUV」は、新しい空気清浄機能のあるユニットにより構成される。ウイルス対策が施されているそうだ。次回は、それについて書く。