vol.2 普遍的で上質な時間が流れる、「マイ・プライベート・リゾート」 デザイン監修クライン・ダイサム・アーキテクツ

Astrid Klein | アストリッド・クライン

イタリア・バレーゼに生まれる。フランス、イギリスでデザインを学んだ後、1988年から日本で活動を始める。ロンドンのRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート) で受けた刺激によって、その才能は開花。エキゾチックなイメージをもつ日本へと引き寄せられた彼女は、伊東豊雄建築設計事務所で働いた後、1991年、マーク・ダイサムと共にKDaを設立する。KDaの作品やその活動は、多くのメディアからの注目を集め、現在では日本をはじめ、イギリス、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ各都市の大学での講義や数多くのデザイン、建築関連の国際会議などにも度々招かれている。

「クライン ダイサム アーキテクツ」は、マルチリンガルオフィスとして建築、インテリア、インスタレーションなど複数の分野のデザインを手掛けている。そのすべてに共通しているのが、一からデザインされていることであり、特に建築は国際的評価が高い。現在では国内外を問わずさまざまなプロジェクトを進め、常に斬新なアイデアで独創的なデザインを世に送り出す。その舞台裏をクライン ダイサム アーキテクツ代表、アストリッド・クライン氏が語る。

建築にアートを掛け合わせるという哲学

クライン ダイサム アーキテクツ(以下「KDa」)は、アストリッド・クライン氏とマーク・ダイサム氏によって東京に設立された。二人の出会いは、クライン氏がアートの勉強をするため、ロンドンにある美術大学RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)に在学中のことである。「私がインテリアデザイナーとして転機となったのは、RCAで学んでいたときです。もともと私はアートを選考として勉強をしており、なかでも彫刻が好きでした。彫刻が持つ存在感、感触、コントラストにとても強い魅力を感じていたのです。そんな私がインテリアに興味を持ち始めたのは、ある日、知人からインテリアの勉強もしたらどうかという勧めでした。この学校の素晴らしいところは、さまざまな分野を一緒に勉強できることです。アートの勉強をしながら建築の勉強はもちろんのこと、アートの分野でもファッション・車・グラフィックといった細かな分野をその気になれば同時に学ぶことができるのです。そしてKDaのもう一人の

ハード面とソフト面のデザインをマークと私で考えることにより、まさに『アートと建築が融合したデザイン』が生まれたのです

代表・マークですが、彼は私とは違い、もともと建築系の大学で学業を積んだ生粋の建築家。建築デザインの可能性を広げるために卒業後、この大学で学んでいました。その後、私たちは日本で同じ建築設計事務所で働くことになり、独立後の1991年にKDaを設立しました。マークの持つベーシックな建築技術と、私が持つデザインに特化した技術が一緒になることで、建物に住む人・訪れる人にとって居心地の良い空間をつくるにあたり、とても理にかなっていました。ハード面とソフト面のデザインをマークと私で考えることにより、まさに『アートと建築が融合したデザイン』が生まれたのです」とクライン氏は語る。KDaは二人の持つ専門知識を活かし、建築とアートが見事に融合したデザインを生み出しているのだ。

インスピレーションは日常の中にある

KDaのデザインは非常に斬新でユニークなものが数多い。そんな個性的なデザインは日々の生活の中からインスピレーションを受けているという。「デザインをするときに心がけていることは、どのような想いで建てるのかを理解することです。その想いがあるからこそ、建物に個性が生まれ、住んでいる人や訪れている人に印象が残るような遊び心を持ったデザインができます。私とマークが日本を訪れた当時、日本の美術館や大型ビルには個性的なデザインが目立つと感じました。しかし一般の住宅では、同じフォルムやデザインが多く、どこか面白みにかけていたのです。ただ、昔ながらの設計で建てられた木造の家を発見したとき、どこか可愛さを感じ『これが日本の家』だと強くインスピレーションを受けました。さらに、日本人から受けるインスピレーションとして、『新しいものを柔軟に受けいれそれを楽しんでいる』ことを感じました。私が来日する前に持っていた日本人像は、とても保守主義で新しい物や文化を慎

デザインをするときに心がけていることは、どのような想いで建てるのかを理解することです

重に取捨選択する人々でした。しかし実際には、身の回りにあるものから多くの新しいものを感じ取ることができます。たとえば、自動車でも同じモデルでも次々に新しいデザインが発売されたり、小さな変化でいえばお店で売られている飲料のパッケージのグラフィックが、季節ごとに変更されていることには驚きました。そういった細かな変化を日常のいたるところで発見するのが、私にとってインスピレーションのもととなっています。それに加え、美術や映画鑑賞、そして美味しい料理を食べるなど、インスピレーションの材料を日常の中から見つけています。日本はそんな材料がたくさんある国なのです。それをアウトプットすることが、私のデザインに繋がっているのだと思います」とクライン氏。言われてみると日本には日々変化していることがたくさんある。それは人の想いや欲求からつくり出されているもの。クライン氏は感覚を研ぎ澄まし、新しいデザインのモチーフとなりそうなヒントを日常の中から探しているのだ。

施主さまこそが一番の設計者である

「施主さまが一番の設計者である」──住宅をデザインするとき、クライン氏が一番の理念としていることだ。「これはとても当たり前のことですが、デザインする際には施主さまの好みをできるだけ把握することが大切です。『なぜこのイメージが好きなのか、または嫌いなのか』、それを施主さまとコミュニケーションを取りながら『この方はこういうパーソナリティーをお持ちなんだな』と把握します。このように施主さまとのマインドの距離を近づけるとに

施主さまとのマインドの距離を近づけるとによって、私たちからはじめてデザインのご提案ができるのです

よって、私たちからはじめてデザインのご提案ができるのです」とクライン氏は話す。会話からデザインのヒントとなるキーワードを拾っていく。そうすることにより考えていることやそれに沿った理想のデザインを提案することができるのだ。

デザイナーと施主側のこだわりは、コミュニケーションを重ねていくことで、より住む人にとって理想の住環境を生み出すことができる。また、施主さまにデザインをご提案するときには、設計模型のほかに「マテリアルボード」というものを使用している。このボードは建設で実際に使われる予定の素材をボードに貼り付けたもの。視覚だけでなく、触っていただくことでより一層、リアリティが増すという。理想の家を建てるためには、まず施主さまを知ることからはじめるという、住む人を軸にデザインするスタンスはまさに、施主さまこそが一番の設計者である証明なのだ。

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